5/13 雨のちくもり
雨が止んだ。予約していた本を取りに図書館へ出かける。
貸出カードを渡す。司書さんはパソコンを操作して、後ろの棚を確かめる。予約の本は二段に分かれていた。上の棚に2冊、下の棚に20冊ほどが並んでいた。司書さんは下の棚を見る。〈これ?〉と取りだし、〈ちがう〉と戻す、くりかえす。わたしはそれを眺めた。
視線を上にやると背表紙が桃色の本があった。あれは間違いなくビギナーズ・クラシックスの桃色である。わたしが予約していた本である。司書さんよりさきに見つけてしまった。司書さんは〈ない、ない〉という手つきで本を探る。声をかけるには遠かった。後ろの棚といったって、5歩くらい後ろなのである。わたしからは8歩くらい前である。
しばらくして、司書さんは「あった!」と明るくひとりごちて、振りかえった。
5/14 晴れ
心地よい天気だったから知らない街を歩いた。
小道があらわれた。この小道を知らないけれど知っていると思った。ずっと忘れていたことを思いだした。むかし住んでいた新長田の家のそばにこんな小道があった。記憶のなかの小道は仄暗い。こどものころの記憶はたいてい夢のようである。
駅につづく歩道橋にのぼった。ひとっこひとりいなくて、暗くて、これもまた夢のようだった。奥にあるステンドグラスはくすんでいた。階段をおりたら、二人組のわかめの影があった。なんの影なのだろう。
5/15 くもり
「家、お近くなんですか」と聞かれた。
こころのなかで〈ちかく、ちかく、そう、近く〉と唱えてから「そうです」と答えた。へんな間ができてしまった。住民票を移し、住所も書きなれたのに、まだこの街に住んでいる心地がしない。とてもながい旅行をしているような心地でいる。
夜、布団のなかでしずかに泣いた。ひとりだから喚いてもいいのに、じっとかなしみに耐えた。
5/16 晴れ
先日、離島にいる恋人に手紙を送った。今日、届いたらしい。
ヤギのレターセットを買った。出張前の旅行で牧場に行ったからぴったりだと思った。封筒はきみどり色で、牧草が生えている。ヤギのシールが四種あり、手紙をくわえているものを貼った。郵便局で手紙を出したあと、大事にしているドラえもんの切手を貼ればよかった、と後悔した。郵便で手紙を送る機会はもうそんなにないかもしれない。
5/17 晴れ
まわりをよく見て、まわりのひとのことをよく考えられるのがわたしのいいところだと教えてもらいました。そう言われて、わたしはまた泣きました。
5/18 晴れ
酔っぱらった。くらくら朗らか。眠ってしまった。
22時ごろ、起きた。まだ眠たいけれど、くらくらしない。洗い物を済ませたあと、なぜか排水口の掃除をした。汚れがとれると、こころもすっきりした。
5/19 雨
調子がよくない。雨だからか。