9/30(月)晴れ
叔母に電話をかけた。リンリンリンリンという虫の音が電話越しにも聞こえるらしく「鈴虫?」と笑っていた。わたしは泣いている。「最近、なんかいいことあったか」と聞かれた。あった。たくさんあった。マジックアワー、川のせせらぎに交じった魚の跳ねる音、新しいアイデア。いいことは起こりつづけているのに、かなしみがわたしを飲みこむ。一つのかなしいきもちが三つのいいことをなかったことにする。
10/1(火)晴れ
初出勤。いままでの「初出勤」でいちばん緊張していない。「なにかスポーツやってるんですか」と聞かれる。「めっちゃ苦手です。なんでですか」「健康的な日焼けをしてるなあと思って」日焼け止めを塗らずに自転車を乗りまわしていたからです。
夜、まゆみさんと電話した。もうわたしたちは恋人の母・息子の恋人という関係ではなくなってしまったけれど、それが心地よくて、ともだちのようであり、わたしの夢を応援してくれるひとであり、いつかどこかで別れなければならないことをこころのどこかでわかっている凪のような関係である(きっとこんなことを言っていたらまた怒られる)。
10/2(水)晴れ
妹が「わからん」と数学の問題を持ってきた。一問目はスンナリと解けた。二問目は式を立てられたのに、いつまでも教科書の答えにたどりつけず、Gemini[GoogleのAI]に頼った。しかし、教科書とGeminiの答えも一致しない。整理された式で問いかけなおすと、正しい答えが出た。正解のときと不正解のときの式を見比べると、Geminiは解の公式で解くところを因数分解していた。展開すると元の式にならなかった。なぜそんなミスを?
やるべきことを放りだして数学をしている間、慢性的なかなしみが消えていた。唸りながら問題を解くわたしには少女のころのわたしが宿っていた。ああ、わたしはこれがいちばんすきだった。それに気づいた途端、涙がはらはらとこぼれた。夢を諦めたけれど、なにも結果を出せなかったけれど、〈たのしいたのしい〉と夢中で勉強していたわたしは、いまのわたしを救えた。それだけで十分じゃあないか。
10/3(木)雨
一日中、目と喉が痛かった。からだから〈熱が出ます ちゃんと休んで〉とお知らせがきている。今晩は横になって過ごそうと決める。勤務中に決める。紀伊國屋で本を買ってかえる。SポイントカードとVポイントカードとQUOカードとデビットカードを出す。カードのオンパレード(半数はモバイル)。
10/4(金)小雨
夜中にたのしいことを思いついて、わくわくしたまま寝た。わくわくしたまま起きて、わくわくしたまま働いた。帰宅してからたのしいことを試す。じぶんの想像から大きく外れることなくやれそうだ。
10/5(土)晴れ
14時ごろ、落ちこむ。パソコンを閉じる。畳まれた布団に頭を預けて横になる。iPadを開く。いまのじぶんの状態をやわらかい絵にした。描いているうちにきもちがゆるやかに上がってきた。余計なことを考えなくていい時間を増やしたい。
10/6(日)晴れ
三つある。まずは次女が、次に三女が、最後に長女が選びとる。一斉に食べる。誰も喋らない。長女が顔をしかめて「すっぱい!」と言った。次女と三女はにまにまと笑った。こどものころから、そのまんまグレープは分けあって食べる。
テレビを眺めていた。実家はずっとテレビがついている。ニノが「ゲームする時間を削って寝ている」と言っていた。いいなあそれ、と思う。すきなものには真摯でありたい。